トップ > 花の精

花の精

Les Ballets Russes, Vol. 1

ストラヴィンスキー「春の祭典」、ドビュッシー「遊戯」、デュカス「ラ・ペリ」

シルヴァン・カンブルラン指揮、SWR交響楽団バーデン・バーデン&フライブルク

hanssler classic
2006年録音他

Stravinsky: Sacre Du Printemps (Le) - Debussy: Jeux - Dukas: La Peri (Les Ballets Russes, Vol. 1) - Sylvain Cambreling
iTunesをインストールしている方はアイコンをクリックすると起動して曲を試聴することができます。

(場面は深い森の中。清らかな水が流れる川岸。一人の若い男が舞台左の鬱蒼とした木々の間から降りて来る。彼は珍しい花を探して各地を彷徨い歩く花盗人。彼は初めて訪れた森で迷い、一夜を過ごす場所を探していた。舞台中央奥には、一筋の滝が音も立てずに流れ落ちている。舞台右には、大きな岩がある。一輪の花が、岩の頂上で月の光を浴び、花びらについた水滴をキラキラと輝かせて咲いている)

花盗人
あっ、花だ!あの花だ!既に絶えたかと心配したが、やはり、この森に咲いていた。この花には奇妙な噂がある。一度でも花を見た者は、狂ったように同種の花を探し続けるという。美しい花の精の、この世の物とは思えない快楽の虜となって。だが、そんなのは迷信だ。信じる人間なんていない。それにしても美しい。

(花盗人は岩に登って花に見蕩れる。虹色に輝く無数の光の粒が空間を漂いはじめる。花の精が舞台右から登場する。花盗人は恐怖を感じて岩から転げ落ちる。花の精が、舞台中央で倒れている花盗人の周りを、神秘的な踊りを踊りながらゆっくり回る。花盗人は立ちこめる甘い香りで意識が朦朧となる。花の精が差し出した手を取り、取り憑かれたように踊りだす花盗人)

花の精
あの枝から、あの幹から、森を繋ぐ美しい鎖が消えた。幾千の月が満ち欠け、幾万の季節が駆け巡り、太古から繋いできた尊い絆。森に張り巡らされた鎖は切り裂かれ、未来は儚い夢となって崩れ落ちる。

花の精
私一人が、この森に花を咲かせて佇んでいる。それでも私は恋を歌う。狂おしい熱情に身を焦がし、清らかな願いに我を忘れて花を咲かせる。何処にいるか分からない仲間に花粉を届けるため。山を越え、海を越え、私は花粉を届ける。太古に交わした約束を守るため。

花の精
根に落ちる涙に過去を嫌って枯れる花。葉を揺らす恋に未来を信じて香る花。そう、私たちは人間を惑わす。愛の快楽で縛り上げ、私たちの生け贄として花粉を運ばせる。命が尽きるまで。あなたに届け、私の愛。いつかまた、あなたに会える。きっとまた、あなたに会える。さようなら!

(舞台全体を使って踊っていた二人は、中央で止まり、少し距離を置いて見つめ合う。花の精が不思議なステップを踏み、花盗人がゆっくりと倒れ込んで気を失う。空が白み、太陽が山際から昇ろうとしている)